仙厓(せんがい 1750-1837)は、軽妙洒脱な筆致で描いた書画によって庶民を教化し、“博多の仙厓さん”と慕われた江戸時代後期の禅僧です。本展では、仙厓が遺した膨大な書画をもとに、仙厓を育んだ禅の世界について探っていきます。仙厓の禅画に表現された人生の教訓やメッセージも紹介します。
とくに本展では、日本に伝わった禅の教えが広く一般に浸透していった近世に臨済禅をひろめることに邁進した仙厓の姿をふり返ります。中国伝来の禅の精神を再解釈してわかりやすく説きほぐし、さらに、その教えを庶民に広めるにあたっては自らの得意とする画を活用して数多くの作品を遺した仙厓が伝えようとした禅とはどのようなものだったのか。仙厓の禅画の世界を今一度、見つめ直します。
なお、本展開催にあわせ、仙厓とならぶ禅の名僧、一休(1394-1481)の住庵・床菜菴(しょうさいあん)ゆかりの作品、および仙厓が活躍した江戸時代後期に制作された九州諸窯の陶磁器などもあわせて展示します。
本展のみどころ
仙厓と出逢う、禅と出逢う
江戸時代、九州・博多にある日本最古の聖福寺の住職として活躍し、ユーモアあふれる禅画を数多く遺した仙厓。
実は、同じ臨済宗の中興の祖として讃えられる白隠と、「東の白隠、西の仙厓」と併称されるほどの高僧でした。禅画の双璧と言われる両者ですが、現在、臨済宗の禅僧の系譜に名が残るのは白隠のみ。本展は、いまだ知られざる仙厓と出逢う絶好の機会となることでしょう。日本最大のコレクションをほこる出光美術館の所蔵代表作と遺愛の品々、あわせて約90件による本格的な回顧展をどうぞお楽しみください。
出光佐三も魅了した、仙厓からのメッセージ
―いつの時代にも新しい。仙厓が伝えようとした教えや戒め
今、巷で話題の小説、『海賊とよばれた男』(百田尚樹著、講談社刊)のモデルは、出光興産創業者であり、出光美術館の創設者でもある出光佐三です。佐三の美術品蒐集のスタートは、仙厓の「指月布袋画賛」でした。以降、佐三はユーモラスな表現の奥に隠された仙厓の教えの素晴らしさに心打たれ、自身の事業にもその精神を生かしてゆくようになります。それは、江戸時代の博多の人々が仙厓の禅画に魅了されていったのとまったく同じでした。仙厓を代表する作品を通して、厳しくも心温まる仙厓のメッセージがわかりやすく紹介します。
展覧会の構成
1.禅僧仙厓の生涯---仙厓略伝
仙厓(1750-1837)は美濃(現・岐阜県)で生まれました。地元の清泰寺、そして、武蔵(現・神奈川県)の東輝庵において臨済宗古月派の禅僧として厳しい修行を積んだ後、九州、博多に下り、日本最古の禅寺、聖福寺第123世の住職として、老朽化した伽藍の修復や弟子の育成に活躍しました。還暦を過ぎた仙厓は後を弟子の湛元(?-1855)に譲って境内の虚白院に隠居し、得意の禅画を通して庶民に禅の教えをひろめることに努力しました。気さくで正義感の強い性格から多くの人に愛され、今でも「博多の仙厓さん」と慕われています。
2.仙厓版「禅機図・祖師図・仏画」集成---仙厓と禅の世界
仙厓が残した仏画は禅に対する仙厓の理解を非常によくあらわしています。特に、禅に関連した数多くの画題の中から後進の指導のために仙厓自身が選択して描いた禅機図(ぜんきず)には、仙厓の禅に対する考え方が色濃く反映されており、仙厓の禅理解を解き明かす重要なカギとなります。しかも、その賛をよく読んでみると仙厓独自の賛嘆や、逆にかなり辛辣なコメントが添えられていることもあり、同様の画賛と一風異なった、仙厓独自の内容を持った仙厓版の禅機図となっていることも特徴としてあげられます。また、釈迦や達磨のほか、阿弥陀や観音なども含んだ仏画には仙厓の慈悲の心と衆生救済への強い思い、宗教観を読み取ることが出来ます。
3.仙厓禅画にあらわされた教訓
虚白院に移った仙厓のもとには、大人たちは相談事で立ち寄り、子供たちは遊びにと、隠居所は多くの人々が集う、さながら博多っ子の憩いの場といったありさまでした。しかも、訪ねた人々はかならず、仙厓が得意とする書画を求めたようです。仙厓も気前よく描き与えたようで、その積み重ねが膨大な禅画となって伝わっているのです。仙厓は「蕪」や「蛙」、「月」、「蘆」、「柳」、「さじ」など、眼にしたものは何でも描いたように見えますが、いずれにも禅の教えや教訓をこめて描いているのが特徴です。しかも、時にはかなり厳しい教えもありますが、必ずユーモアをまじえて優しく解き明かしているため、見る者の心を引きつけてやまないのです。仙厓展になくてはならない仙厓禅画の名品選コーナーです。
4.斎藤秋圃筆「涅槃図」
88才で天寿を全うする仙厓ですが、笑いとユーモアたっぷりの最大の傑作の一つが生前に描かれた自らの「涅槃図」でしょう。友人で画家の斎藤秋圃(1769-1861)の筆によるこの作品では、釈迦の涅槃図にならって樹林の中にしつらえられた寝台にこちらに背を向けた仙厓が涅槃に入った姿が描かれています。そのまわりには仙厓の徳を慕って集まった博多の友人・知人たち、さらに画面下方には仙厓遺愛の品々までもが悲嘆にくれている様子が描かれています。しかし、すべては仙厓愛用の筆が見た一夜の夢。自らの死を題材にした博多の友人サークルの面々の楽しそうな鑑賞のありさまが想像されます。また、仙厓晩年の絶筆碑建立や「老い」のテーマへの思いを示す作品も併せて紹介します。
仙厓遺愛の品々
仙厓は非常に多趣味な人物としても知られています。仙厓が筑前(現・福岡県)の名所旧跡を好んで訪ね歩いたことや、抹茶と煎茶両方のお茶をたしなんだこと、さらに、珍奇な石や古美術品の蒐集をしたことなど、仙厓遺愛の品々として伝わる作品の数々からは、禅僧仙厓の趣味人としての側面が見えてきます。このコーナーでは、多様な趣味の結果として仙厓のもとに集められた作品や仙厓が書画をしたためるために用いた印や矢立など、仙厓遺愛の作品を紹介します。
特集展示:一休ゆかりの床菜菴コレクションと仙厓
一休の生涯について記した『一休和尚年譜』によると、文明元~10年(1469-78)、応仁の乱の混乱を避けるため、奈良、堺をへて住吉(現・大阪府住吉区)に移った一休が開いた庵の一つに床菜菴があります。大徳寺入寺を命じる書簡を携えた柔中和尚のために文明8年(1476)に建てた庵で、野菜畑に建てられたことからこの名がつけられました。その後、次第に荒廃していきましたが、明治初年ごろまでは門の跡や竹やぶが残っていました(現在では上住吉西公園内にわずかに石碑を残すだけとなっています)。この床菜菴ゆかりの伝承をもつ一休着賛の頂相(祖師図)や書などの作品群を紹介するとともに、一休と仙厓という二人の禅僧が注目した百丈禅師にちなんだ作品も紹介しています。
指月布袋画賛
仙厓筆 江戸時代
出光美術館蔵 |
南泉斬猫画賛
仙厓筆
江戸時代
出光美術館蔵 |
坐禅蛙画賛
仙厓筆 江戸時代
出光美術館蔵 |
自画像画賛
仙厓筆
江戸時代
出光美術館蔵 |
堪忍柳画賛
仙厓筆 江戸時代
出光美術館蔵 |
双鶴画賛
仙厓筆
江戸時代
出光美術館蔵 |
涅槃図
斎藤秋圃筆 仙厓他賛 江戸時代
出光美術館蔵 |
狗子仏性画賛
仙厓筆
江戸時代
出光美術館蔵 |
一休宗純像
曽我墨渓筆 一休宗純賛 室町時代 享徳2年(1453)
出光美術館蔵 |
額字「床菜菴」
一休宗純筆
室町時代
出光美術館蔵 |
■開催期間 |
2013年9月21日(土)~ 11月4日(月)
休館日:月曜日(ただし9月23日、10月14日、11月4日は開館) |
■開催場所 |
出光美術館(東京・丸の内)
東京都千代田区丸の内3-1-1 帝劇ビル9階 (出光専用エレベーター9階)
JR「有楽町」駅 国際フォーラム口より徒歩5分
東京メトロ有楽町線「有楽町」駅/都営三田線「日比谷」駅
B3出口より徒歩3分
東京メトロ日比谷線・千代田線「日比谷」駅
有楽町線方面 地下連絡通路経由
B3出口より徒歩3分 |
■開館時間 |
午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
毎週金曜日は午後7時まで(入館は午後6時30分まで)
会期・開館時間等は都合により変更することがあります。
最新情報は、出光美術館ウェブサイトまたはハローダイヤル(03-5777-8600)でご確認ください。 |
■観覧料金 |
一般1,000円/高・大生700円(団体20名以上 各200円引)
中学生以下無料(ただし保護者の同伴が必要です)
※障害者手帳をお持ちの方は200円引、その介護者1名は無料です |
■主催 |
出光美術館 読売新聞社 |
■お問合せ |
TEL 03-5777-8600(展覧会案内) |
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