仏教の流れのなかで精進もいくつかの流れに分けられる。大別すると、日本の精進料理は次のようになる。奈良仏教と呼ばれる東大寺をはじめとする寺々のもの。平安仏教と呼ばれる比叡山や高野山を主峰とする寺々のもの。そして、鎌倉仏教と呼ばれる浄土宗、日蓮宗、禅宗、真宗のそれぞれの宗派の寺々のものから出発したもの。なかでも禅宗寺院系のものは、その興隆に伴い、精進料理も見事な発展をとげた。 ■ 精進料理の材料 精進料理の基本は一汁一菜である。そしてこれは、一年中変わらないのが原則で、修業僧はとくに厳格にこれを守ってきた。 僧たちの平均的な献立は、朝がおかゆと香のもの(たくあんなどの漬け物)、昼は麦めしにみそ汁と香のもの、夜は昼の残りものといったところである。大根は年中食卓に出る料理の中心材料である。日常の精進料理はこのように質素なものであり、開山忌などの特別な日だけにわずかに料理数が増やされる。後にそれが接待、供養のための本膳料理として独立し、一般の精進料理に発展した。 大根漬けが日常の精進料理の中心材料であるのに対し、本膳料理としての精進料理の材料には、季節の野菜を中心にわらび、ぜんまい、しいたけ、竹の子、こんぶ、豆、ひじき、生麩、生湯葉などが使われる。これらの材料以外には、そば、豆腐、胡麻豆腐、コンニャク、さといも、れんこん、カボチャなども比較的頻繁に使われている。 次にこれらの材料の中で中心的なもののいくつかにふれてみよう。 【豆腐】 各寺院の豆腐にはそれぞれ独特の味がある。京都のある豆腐店ではいまだに石臼で大豆をすりつぶして豆腐を作る。石臼をひくことで機械では絶対にできない味にしている。昔ながらの手間ひまかける作り方である。 【湯葉】 原料は豆腐と同じ大豆である。大豆をすりつぶして煮る。これをこして豆乳をつくり、それをニガリで固めたものが豆腐。なべに入れて温めると表面に膜が張るが、これをすくい上げたものが湯葉である。湯葉は刺身、田楽、カラ揚げ、茶わん蒸しなど様々に目先をかえるので、精進料理の中で利用価値が高い。 【胡麻豆腐】 精進料理には胡麻を使ったものが多いが一般に低カロリーになりがちなこの料理の中にあり、胡麻は栄養価を補充しているといえる。胡麻豆腐は作るのが大変で、胡麻を徹底的にすりつぶしてバター状にするまでに二、三時間もかかる。バター状になればなるほどよい胡麻豆腐ができる。これに吉野くずと水を加え、とろ火でじっくりと練り回す。するとトロリとした舌ざわりのこくのある胡麻豆腐ができる。 【生麩】 精進料理の彩りのためには欠かせない。原料は小麦粉で、これを水と塩でよくこね、水で洗うと麩の原料の麩素(グルテン)が残る。一般によく使われる焼き麩はこれを熱したなべに入れ水でよくふくらませたものである。生麩はこれに餅粉を加え蒸したもので、よもぎを加えると緑色に、栗を混ぜると黄色になる。大変やわらかく粘り気があるので、もみじ、桜、手まり、干支、家紋などに細工され食膳を飾る。 【コンニャク】 今ではダイエットの主原料と考えられているコンニャクも、精進料理にとっては大事な材料のひとつである。コンニャクはカルシウムも多く、ほかの食物の消化をたすける。その九割が腸で消化されるので整腸作用もあり、大変有用な食べものだ。コンニャクそのものには味がないため、しょう油、砂糖、みりん、唐辛子などで味付けして供する。 【飛竜頭(ひりょうず)】 これは、関西ではひろうす、あるいはひろす、関東ではがんも(どき)と呼ばれている。もともとその名のように竜の頭のように三角形であったものがいつの間にか丸くなった。飛竜頭はなかに使われる具が決め手となる。ふつうの豆腐屋では人参、ゴボウ程度だが、精進料理用のものになると人参、ゴボウのほかにキクラゲなどを入れツクネイモでよく練ったうえ、ゆりねとぎんなんを包んで丸める。そしてこれをなたね油で揚げる。原料は豆腐だが、工程はすべて手づくり、具にグリーンピース、しいたけを入れるところもある。やはり手間のかかるものである。 【カボチャ】 カボチャは神経と体力を使う苦行僧にとっては欠かせない。栄養価も高く体内の酸化を防ぐ。料理方法によっては栗のような味を作ることもでき、カボチャを常食にしている寺もあるほどで、苦行僧の大切な栄養源となっている。 【納豆】 精進料理用の納豆は一般の糸を引くものではなく、まっ黒で塩味とほんのりしたみそ味の唐納豆ともいわれているものである。 |