精進料理は、四季折り折りの野菜や米穀類、海藻などの動物性のたんぱく源を除いた自然素材をもとに寺院内で調理された料理で、その歴史は仏教の流れの中で培われ育てられてきた。
今から七百年以上前に曹洞宗の開祖道元は、『典座(てんぞ)教訓』『赴粥(ふしゅく)飯法』の中で、禅における食事の作法を著している。禅は労働の宗教といわれているが、寺での集団生活の中には、それぞれ厳しい規範があり、そこでは日常生活のすべてが、禅の修業であり、食事を作ることも大事な精進、すなわち修業であった。
僧たちは寺の周辺の山野から、あるいは寺社内で自作し、また農家から素材を集め日常の食事に供した。
もともと精進料理の出発点は、このように僧たちの日常生活から生み出された質素なものであった。しかし今日では寺の特別の日、つまり開山忌や供養などの日の本膳料理を精進料理と呼んでいる。
精進料理は、ただ食を満たすためだけのものであってはならない。自然の産物とそれに手を加えて出来上がった人間の営みの調和を感じながらいただくものである。作る人が一所懸命心をこめて作ったものを、食べる側でも一所懸命食べる。これが精進料理の作法といえよう。精進料理を供している寺によっては、静かに食べるとか、音をたてないで食べるというところもあるが、その基本は、心をこめて作った人の身になって食することであろう。