■仏教のしきたり
●寺院の院号、山号とは
寺院の正式名称は○○院○○山○○寺となる。この院には、回廊とか垣をめぐらすとかの意味があり、仏教寺院を僧院と呼ぶ。また、仏教が伝来したころの中国では神仙思想が盛んであり、仏教と習合したところで好んで山中に寺院を建立した。そこで、その所在をあらわすために山の名をつけたのが山号である。日本においては、奈良時代の仏教寺院はすべて平地に建てられたため、山号がなかったが、平安時代になり、山岳信仰と結びついたところで、寺院が山中に建立されるようになり、山号をもつようになった。鎌倉時代以降になると、臨済宗が寺の最高の格を「五山」であらわすようになり、以後、山中であろうと平地であろうと山号を冠するようになった。
●山門、三門とは
山門とは山中に建てられた寺院の正面の門のことをいうが、ほとんどの寺院が山号を持つようになると、平地の寺であろうとも正面の門を山門と呼ぶようになった。三門とは「三解脱門」のこと。解脱のための三つの関門のことである。一つは空解脱門、一つは無相解脱門、もう一つは無願解脱門のこと。この三門を寺の門にたとえたわけで、寺の門をくぐるということは、三解脱門をくぐるということの意を表す。はじめ禅宗の寺での呼称だったが、後に他宗もまねて使うようになり、山門と同義語となるに至っている。
●僧侶はなぜ剃髪する
坊主頭といわれるように、僧侶は原則として剃髪することになっている。なぜ剃髪するようになったかというと、釈尊が剃髪していたことに由来する。釈尊が出家する当時、インドの風習として出家修行をする人は、剃髪している人が多かったので、釈尊もこれに習ったといわれる。我が国では浄土真宗の親鸞が非僧非俗といって、形式的な剃髪よりも、心の純粋性を重んじたため、この傾向が現在では他宗派にも及び剃髪の義務はない。ただし禅門の道場などでは、僧侶は毎月4と9の日に剃髪する。
●僧侶の呼びかた
僧侶とは仏教に帰依する人の集まりをいう。梵語では「サンガ」。のちに寺院が固定化すると寺院に住む出家者を僧侶と呼ぶようになり、その属する宗派や地位によって呼び方が異なる。 和尚、和上=民衆に接して法を説く師のこと。 院主=寺院の代表者。 門主、管主、化生=宗派一門の最高の地位にある者。 住持=寺院に住み、法を護る人。 坊主=大寺院の僧坊で監督する人。 上人、聖人=学徳の高い名僧、高僧。 禅師=禅の修行をつんだ高僧。 国師=一国の天子の指南として仰がれる僧。 大師=名僧が朝廷より賜る敬称。 入道=貴族や武士で新たに仏門に入った人。 新発意=俗界から新たに仏門に入った人。 一般的には、有名無名を問わず、敬称として「ご住職さま」と呼ぶのが一般的であるが、各宗派によって少々違う。 天台宗-宗派上最高位を座主、 真言宗豊山派-宗派上最高位を管長、尊称では猊下と呼ぶ。 浄土宗-宗派上最高位を門主、大本山最高位を法主、総本山の最高位を門跡、 浄土真宗-宗派上最高位を門主、 臨済宗-宗派上最高位を管長、尊称では老師さまと呼ぶ。 曹洞宗-宗派上最高位を貫首、尊称では禅師さまと呼ぶ。 日蓮宗-宗派上最高位を管長。 このほか仏教教団によっても異なるが、僧の格式により「僧正」「僧都」「律師」などがあり、この呼称の上に大・小・権の階級がつけられる。また、寺にも格式があり、住職の衣や袈裟の色が違うように、呼称でも識別されるところもある。さらに「学階」といって、僧侶の学歴が加味されるところもある。 ●僧侶の法衣
僧侶の法衣には、大別すると礼装・正装・略装となる。宗派によっても呼称が違い、定義は必ずしも一定ではない。
礼装=法要儀式を執行する仏前における服装。僧侶の最高の儀礼の服装で、大衣、即ち九条袈裟以上をつけることを本義とする。袈裟は種々美化された金襴が用いられ、緑、条、堤、台等一色になっている平袈裟と呼ばれるものもある。袈裟の下の衣は袍裳あるいは鈍色で、本来は白色だが、神道理念と融合して法衣の壊色思想が転じた衣である。位階により色がつけられ、一・二位深紫、三位浅紫、四位深緋、五位浅緋、六位深緑、七位浅緑、八位深縹、無位黄となる。僧正、僧都、律師は三、四、五、六位に相当し、法師、法眼、法橋等もこれに準ず。これは中国唐時代以来の慣例だが、各々の宗派で特殊な服装をしているところも多い。 正装=宮中参内とか、門信徒、一般人などと正式に面接するときの服装をいう。正装には二種類あり、重いときは色衣に五条、軽いときには黒衣に五条となる。持ち物は中啓、念珠。 略装=寺内にいて作務や日常生活をするときの服装。明治維新後、僧侶に対し法要以外は平服着用の許可がおり、各宗派ともそれぞれに略装を制定したりしたので規定はない。 ●一般的な僧侶のもちもの
数珠=南伝の流れをくむ上座仏教には用いられず、北伝のいわゆる大乗仏教に用いられる。種々の理念が付加されて、現在各宗派ではそれぞれの様式を異にしている。
払子=長い柄の先端に羊毛をよった毛や、麻や古布をさいてよったものを束ねてとりつけたもの。修行のさいにハエや虫、ちりを払う道具であった。釈尊当時には律で使用が禁止されていたが、北伝仏教では儀式の際に威儀のため用いられる。 如意=俗にいう孫の手で、かゆい所をかく用具。中国伝来後、威儀のために用いられる。 扇=日本で創案されたもので、天台、真言系では檜板で作られた生地のまま檜扇を用い、正装には中啓、略装には妻折の扇子を用いる。僧侶の扇は、朱骨が通例となっている。 |