■日本の仏教における結婚
仏教における結婚は、『仏本行経』や『過去現在因果経』にあるように、仏陀の前生譚で理由づけられる。これは雲童子という青年と賢者という少女とが、仏に供養する華を因縁として、永々と夫婦になり、その最後に釈迦とその出家前の妻ヤシュダラ姫になったというのである。この説にちなんで、仏前結婚式のクライマックスは、仏の過去本行にちなみ、新郎新婦は雲童子と賢者になり、仏に七本の華を供養する行華焼香と誓詞朗読とにある。ところが、この理由づけだけに基づくならば、新郎はいずれ釈迦と同様に妻を捨てて出家することになってしまう。そこで、日本における仏前結婚の理念は、浄土真宗の宗祖親鸞の結婚観へと結び付いていく。 初期の仏教教団においては、出家者の性的行為はタブーであったため僧侶の妻帯は認められていなかった。が在家信者の場合をとれば、不邪婬戒はあるが、『大品般若経』などの大乗諸経論に、菩提心を失わない限り、在家の妻帯を認めている。日本では親鸞が妻帯してから以後、妻帯は浄土真宗の宗風となった。諸宗の出家の妻帯が公然となったのは、明治5(1872)年、僧侶の肉食妻帯の解禁令に始まり、諸々の変遷をたどりつつ、明治11年あたりから妻帯が是認されるようになった。 結婚生活を通じて信仰をいかに持続していくかが僧俗共通のテーマとなり、現在では各宗派がそれぞれに仏前結婚式の構成に力を入れて取り組んでいる。それぞれに別の道を歩んできた男女が、深い因縁によって結ばれる縁起の理法を仏の慈悲と受け止め、仏前にて二人の愛を貫き通すことを誓い合う場としての意義を高めるために、各宗派がそれぞれの宗風をもとに式次第に盛り込むことを意としている。 |